Martin 80年製 D-28 トップ割れ ナット&サドル作成交換 フレットすり合わせ PU取付
ピックガードに塗装がのっているタイプでピックガードの経年劣化と共にトップ板が割れるマーチンクラックと呼ばれる割れのリペアです。マーチンクラックの症状の中でも重症でトップ板が歪んでしまっていますのでトップ板の矯正からはじめます。その他にナット&サドル作成交換・フレットすり合わせ・PU取付のご依頼です。
久しぶりに倉庫から出したところピックガードがこんなに歪んでいたとのことです。
まずはドライヤーでピックガードを温めます。
少し柔らかくなったところでパレットナイフで剥がしていきますが力が強すぎるとトップ板を傷めてしまいますので注意が必要です。
キレイに剥がれました。ピックガードの歪みはずいぶん前からなっていた様でトップ板にはムラが確認できますね。
割れの箇所。1mm程めくれあがってますのでトップ板の矯正に入ります。
このまま湿度や熱を与えたりして数日間、固定したりポイントを変更等を繰り返して板が落ち着くか様子を見ます。
トップ板の矯正はうまくいきました。
トップ割れに軽く薄めたタイトボンドをすり込むように流し込みます。
クランプやジャッキを使ってパッチとブレーシングを留めていきます。
トップ板に段差が出来ないようにクランプして24時間固着を待ちます。
スプルースペーストを作ります。
割れで生じたロゼッタの隙間を補修します。
バックブレーシングにも浮いている箇所を確認。
マスキングテープをパレットにしてタイトボンドを置いていきパレットナイフで隙間にすり込んでいきます。
すばやくジャッキアップしていきます。トップ板やバック板に負担が掛からないように外側からもやさしくクランプします。接着時間はこのまま24時間クランプして固着を待ちます。
塗装部分で割れがわかってしまいますのでタッチアップ作業で極力、傷を隠します。
数日かけてラッカーを盛っていきます。
ラッカーを充分に乾かした後に仕上げに入ります。余分なラッカーを削り取ります。
ピックガード跡の塗装が施されていない部分が近いので水研ぎはせずに塗装面を仕上げていきます。
パッと見ただけでは割れは無かったかのように仕上がりました。
ピックガード跡に沿って塗装が盛り上がっています。塗装の盛り上がりを削って平面に整えておきます。これでピックガードを貼る準備ができました。
割れ傷を隠すためにオーバーサイズのピックガードをチョイスしました。
オーバーサイズのピックガードなので余分な所をカットします。
カットした所を面取りするようにヤスリで仕上げます。
ヤスリで出来た傷を滑らかに仕上げていきます。
最後にコンパウンドで磨きます。
オーバーサイズのピックガードなのでマーチンクラックも少し隠すように位置を調整してピックガードを貼り付けます。
トップ板のリペアは完了です。
PU取付もご相談されました。オーナー様は見た感じが変わらない方がよい・電池交換の無いパッシブタイプがよい・サウンドはナチュラルがよい等のご要望でしたので定評のあるLR.Baggsのi BEAMパッシブをチョイスしました。
12mmドリルビットでエンドピンジャック穴を開けます。
LR.Baggsのi BEAMはこのようにサドルの真下にセンサーが来るようにアタッチメントを使用してPUを取り付けます。
オリジナルのナット。素材はミカルタでしょうか?人工素材のナットですので牛骨に変更して音質の向上改善を狙います。
このマーチンはナットスロットが斜めに加工されていて横からスライドして取り付けるタイプです。しかし横から叩いても動く気配がなくネックの負担を考慮して崩し取る事にしました。
ルーターやニッパーを使用して少しずつ崩していきます。
ナットスロットに付着している接着剤の残りをマイクロノミで除去します。
ナットスロットが仕上がりました。
スラブ材からナットを作成していきます。底辺が斜めでスロット横の壁も斜めタイプの溝ですので最も難度の高いナット作成になりますがキッチリ、ピッタリに収まるようにします。
荒くですがナット形状に出来てきました。
ナットスロットにピッタリと収まっていますね。この仕上げが良いトーンを生みだします。
同じく1弦側。密着度が高く弦振動が良く伝わり、結果トーンの向上が期待できるのですね。
String Spacing Ruleで正確な弦間隔をはじきだします。
弦溝を切っていきます。荒く削った後、弦を張って弦高の微調整をして仕上げます。
微調整を繰り返して最後に磨きあげてナット工程は完了です。
オリジナルのサドルです。こちらも人工素材ですので牛骨に変更して音質の向上改善を狙います。
スラブ材からサドルを作成していきます。
フラットファイルで溝ピッタリになるように幅の微調整をします。
スロットピッタリのサドルが出来ました。
オリジナルのサドルから大体の形状を書き写します。
フィンガーボードのラジアルを計測して同じRでサドルトップを仕上げます。
#1500から始めて最終的に#12000まで番数をあげて磨いていきます。
弦高の微調整です。バイストップを平面に計測してから余分なサドルの底辺を削っていきます。
サドル底辺は平面性を出す仕上げが音に影響しますのでとても大事です。
サドルの完成。
フレットの傷み箇所。鉄弦は1・2弦があたる所の消耗が激しいのでバズってくる原因になります。すり合わせしてフレットの高さをあわします。
ネックジグなる治具があるのですが高価なのでオリジナルを参考に自作したネックジグ。このツールがあると弦を張った時と同じテンションをネックに与える事が出来ます。ようするに弦を張っていなくてもネックがまっすぐになってクオリティの高いネック作業が出来るというスグレモノのツールです。
ストレート(真直度)を精密に測るスケールで隙間が無いかチェックします。 コピー用紙を挟んだり光をあてたりしてフレットトップの高さをあわせていきます。
フレットレベリングファイルで出来たキズを消していきます。
ヤスリから指板を守るためにマスキングテープをしてからフレットトップの角を専用ヤスリで丸くしていきます。
すり合わせ時の傷が深い時には#150くらいからはじめて徐々に番目をあげていきます。
#1000くらいまでペーパーで磨いてからスチールウールで磨きます。
最終的にはコンパウンド(研磨剤)を使用して磨き上げます。
ボディプロテクト板をはずしましょう。
ピッカピカになったフレットは見た目だけでなく音もくすみが無くなりサスティーンも改善します。
微調整を繰り返して弦高は6弦12F上で約2.5mm。
1弦12Fの弦高は約2.0mmで調整。
全体をチェックしてリペア完了です。持ち込まれたときの割れを忘れてしまうほどキレイになりました。ナット&サドル作成交換やフレットすり合わせを施してまさしくマーチンらしい鈴鳴りのトーンで鳴っています。