Martin 73年製 D-28 マーチンクラック&オフセットサドル加工 他
ピックガードの伸縮でトップ板がピックガードに持っていかれる板割れの症状。70年代製のマーチンに起こりやすい事からマーチンクラックと呼ばれるリペア依頼です。特に今回の症状はトップ板が歪んでしまっていますし隙間が1mm程開いてしまっています。隙間を他の木材で埋めるのか又はどうにか歪みを矯正して元の状態に戻していくのかしばらく考えましたがやはりオリジナルに近づけるのが最善と思い矯正する事にしました。他に弦高が高めなので下げて欲しいとの依頼とエンドトリムが剥がれているのを補修する事になりました。
マーチンクラックは裂けて盛りあがっています。さて矯正はうまくいくでしょうか?
内部のチェック。トップの歪みは中からも確認できます。ここは言うまでも無くブレーシングが剥がれています。
割れの伸びた所も1箇所ブレースは浮いています。
まずはドライヤーでピックガードを温めます。
少し柔らかくなったところでパレットナイフで剥がしていきますが力が強すぎるとトップ板を傷めてしまいますので注意が必要です。
キレイに剥がれました。ピックガードの歪みはずいぶん前からなっていた様でトップ板にはムラが確認できますね。
ピックガードに隠れていましたがセンター付近にもマーチンクラックが発生していました。
3段に分かれて割れが発生しています。
矯正開始。このまま湿度や熱を与えたりして数日間、固定したりポイントを変更等を繰り返して板が落ち着くか様子を見ます。
調整を繰り返し数日後にフラットになってきました。
もう1箇所も矯正します。
ここで割れの隙間を塞ぐのに専用のジグを作成します。
バンドソーでドレットノートのスクエアショルダーボディのくびれ形にカットします。
拡がった隙間の矯正の開始。ここも数日間固定してボディの落ち着きの様子を見ます。
矯正後の図。これなら接着でピッタリ持っていけそうです。
さらに矯正しながらトップ割れに軽く薄めたタイトボンドをすり込むように流し込みます。
乾く前に少し湿らした布で余分なボンドをふき取ります。
割れの強度と再発の予防にはパッチを使用します。 1番スキマが大きく開いていた部分には強度のためにブレーシングを追加するような長いパッチを接着します。
矯正しながらパッチを留めてブレーシングも同時に接着となりました。ここは矯正と強度を考慮して3日間ほど固着を待ちます。
矯正はうまくいったようです。
スプルースペーストを作ります。
どうしてもピッタリくっつかなかったわずかな割れの隙間を補修します。
割れの箇所にはわずかに塗装の隙間が確認できますのでタッチアップ作業で極力、傷を隠します。
数日かけてラッカーを盛っていきます。
合計3箇所ラッカーを盛ります。
数日掛けてラッカーを充分に乾かした後に仕上げに入ります。余分なラッカーを削り取りサンドペーパーの番数を上げて滑らかにしていきます。最後はコンパウンドでピカピカに仕上げます。
パッと見ただけでは割れは無かったかのように仕上がりました。
マーチンクラックがあったとは思えない程に仕上がりました。
ギターの内部です。形状の違うパッチとブレースでしっかりとトップ板は接着されました。
センター付近のマーチンクラックもパッチで補強。
エンドトリムが剥がれています。バインディング専用の接着剤を使用して補修します。
このように固定して24時間固着を待ちます。
さて現状の弦高は6弦12フレット上で約3.0mm。少し高い状態ですね。
同じく1弦側の弦高は12フレット上で約2.8mm。
オフセットサドルの依頼ですのでイントネーターを使ってオクターブチューニングの位置を計測します。
フィンガーボードのRも計測しておきます。
付いていたサドルはフィンガーボードのRにあっていませんでした。サドルトップも同じRに仕上げます。
計測したオクターブ補正位置をサドル材に書き写し、各弦ごとにサドルの頂点を削りだしてオフセットサドルを作成します。
オクターブの調整が出来ましたら磨いていきます。
弦高はサドル底辺の加工で微調整します。長年のノウハウから弦高下げの分を算出してサドルの底辺を削り取っていきます。
数種類のヤスリでサドルの底辺を削りフラットに仕上げます。
サドル底辺は平面性を出す仕上げが音に影響しますのでとても大事です。
ギリギリまでサドルの高さを削ったのでテンションはほとんど無くなってしまいます。ブリッジピンホールの弦溝をサドル近くまで伸ばしてテンションを稼ぎます。
マーチンのブリッジはピンホールがサドルスロットに平行ではありません。したがって1弦側はテンションが無くなりやすいのです。
専用のミニソーでスロット近くまで弦溝を引寄せます。
ミニソーの後に専用やすりで滑らかに仕上げます。
これでテンションは稼げました。
オフセットサドルの完成です。付いていたサドルは削っていくと象牙特有の模様が出てきました。牛骨だとばかり思っていたのでなんだかうれしくなりました。
最終的に弦高は6弦12F上で約2.4~2.5mm。
同じく1弦側の弦高は12フレット上で約1.9~2.0mm。元の弦高はかなり高めでしたのでプレイヤビリティは格段に向上しています。
ピックガード跡に沿って塗装が盛り上がっています。塗装の盛り上がりを削って平面に整えておきます。これでピックガードを貼る準備ができました。
マーチン純正のオーバーサイズリプレイスメント用ピックガードを貼ります。
ピックガードが付いた図。
ピックガードを装着したら、まるでマーチンクラックがあったなど嘘のように仕上がりました。
全体をチェックしてリペア完了です。この個体は当たりなのか象牙サドルが高じてか素晴らしいサウンドで鳴っています。良いギターを蘇らせることが出来てリペアマンとしてもうれしいですね。