Martin 73年製 D-28 マーチンクラック&オフセットサドル加工 他

DSCF4801

ピックガードの伸縮でトップ板がピックガードに持っていかれる板割れの症状。70年代製のマーチンに起こりやすい事からマーチンクラックと呼ばれるリペア依頼です。特に今回の症状はトップ板が歪んでしまっていますし隙間が1mm程開いてしまっています。隙間を他の木材で埋めるのか又はどうにか歪みを矯正して元の状態に戻していくのかしばらく考えましたがやはりオリジナルに近づけるのが最善と思い矯正する事にしました。他に弦高が高めなので下げて欲しいとの依頼とエンドトリムが剥がれているのを補修する事になりました。

DSCF4802

マーチンクラックは裂けて盛りあがっています。さて矯正はうまくいくでしょうか?

DSCF4803

内部のチェック。トップの歪みは中からも確認できます。ここは言うまでも無くブレーシングが剥がれています。

DSCF4804

割れの伸びた所も1箇所ブレースは浮いています。

DSCF4807

まずはドライヤーでピックガードを温めます。

DSCF4808

少し柔らかくなったところでパレットナイフで剥がしていきますが力が強すぎるとトップ板を傷めてしまいますので注意が必要です。

DSCF4809

キレイに剥がれました。ピックガードの歪みはずいぶん前からなっていた様でトップ板にはムラが確認できますね。

DSCF4810

ピックガードに隠れていましたがセンター付近にもマーチンクラックが発生していました。

DSCF4811

3段に分かれて割れが発生しています。

DSCF4812

矯正開始。このまま湿度や熱を与えたりして数日間、固定したりポイントを変更等を繰り返して板が落ち着くか様子を見ます。

DSCF4814

調整を繰り返し数日後にフラットになってきました。

DSCF4815

もう1箇所も矯正します。

DSCF4816

ここで割れの隙間を塞ぐのに専用のジグを作成します。

DSCF4817

バンドソーでドレットノートのスクエアショルダーボディのくびれ形にカットします。

DSCF4818

拡がった隙間の矯正の開始。ここも数日間固定してボディの落ち着きの様子を見ます。

DSCF4819

矯正後の図。これなら接着でピッタリ持っていけそうです。

DSCF4841

さらに矯正しながらトップ割れに軽く薄めたタイトボンドをすり込むように流し込みます。

DSCF4842

乾く前に少し湿らした布で余分なボンドをふき取ります。 

DSCF4843

割れの強度と再発の予防にはパッチを使用します。 1番スキマが大きく開いていた部分には強度のためにブレーシングを追加するような長いパッチを接着します。 

DSCF4844

矯正しながらパッチを留めてブレーシングも同時に接着となりました。ここは矯正と強度を考慮して3日間ほど固着を待ちます。

DSCF4850

矯正はうまくいったようです。

DSCF4851

スプルースペーストを作ります。

DSCF4852

どうしてもピッタリくっつかなかったわずかな割れの隙間を補修します。

DSCF4860

割れの箇所にはわずかに塗装の隙間が確認できますのでタッチアップ作業で極力、傷を隠します。

DSCF4862

数日かけてラッカーを盛っていきます。

DSCF4863

合計3箇所ラッカーを盛ります。

DSCF4897

数日掛けてラッカーを充分に乾かした後に仕上げに入ります。余分なラッカーを削り取りサンドペーパーの番数を上げて滑らかにしていきます。最後はコンパウンドでピカピカに仕上げます。

DSCF4898

パッと見ただけでは割れは無かったかのように仕上がりました。

DSCF4899

マーチンクラックがあったとは思えない程に仕上がりました。

DSCF4895

ギターの内部です。形状の違うパッチとブレースでしっかりとトップ板は接着されました。

DSCF4896

センター付近のマーチンクラックもパッチで補強。

DSCF4864

エンドトリムが剥がれています。バインディング専用の接着剤を使用して補修します。

DSCF4865

 このように固定して24時間固着を待ちます。

DSCF4796

さて現状の弦高は6弦12フレット上で約3.0mm。少し高い状態ですね。

DSCF4797

同じく1弦側の弦高は12フレット上で約2.8mm。

DSCF4946

オフセットサドルの依頼ですのでイントネーターを使ってオクターブチューニングの位置を計測します。

DSCF4947

フィンガーボードのRも計測しておきます。

DSCF4951

付いていたサドルはフィンガーボードのRにあっていませんでした。サドルトップも同じRに仕上げます。

DSCF4952

計測したオクターブ補正位置をサドル材に書き写し、各弦ごとにサドルの頂点を削りだしてオフセットサドルを作成します。

DSCF4953

オクターブの調整が出来ましたら磨いていきます。

DSCF4954

弦高はサドル底辺の加工で微調整します。長年のノウハウから弦高下げの分を算出してサドルの底辺を削り取っていきます。

DSCF4955

数種類のヤスリでサドルの底辺を削りフラットに仕上げます。

DSCF4956

サドル底辺は平面性を出す仕上げが音に影響しますのでとても大事です。

DSCF4957

ギリギリまでサドルの高さを削ったのでテンションはほとんど無くなってしまいます。ブリッジピンホールの弦溝をサドル近くまで伸ばしてテンションを稼ぎます。

DSCF4958

マーチンのブリッジはピンホールがサドルスロットに平行ではありません。したがって1弦側はテンションが無くなりやすいのです。

DSCF4959

専用のミニソーでスロット近くまで弦溝を引寄せます。

DSCF4960

ミニソーの後に専用やすりで滑らかに仕上げます。

DSCF4971

これでテンションは稼げました。

DSCF4969

オフセットサドルの完成です。付いていたサドルは削っていくと象牙特有の模様が出てきました。牛骨だとばかり思っていたのでなんだかうれしくなりました。

DSCF4961

最終的に弦高は6弦12F上で約2.4~2.5mm。

DSCF4962

同じく1弦側の弦高は12フレット上で約1.9~2.0mm。元の弦高はかなり高めでしたのでプレイヤビリティは格段に向上しています。

DSCF4900

ピックガード跡に沿って塗装が盛り上がっています。塗装の盛り上がりを削って平面に整えておきます。これでピックガードを貼る準備ができました。

DSCF4967

マーチン純正のオーバーサイズリプレイスメント用ピックガードを貼ります。

DSCF4963

ピックガードが付いた図。

DSCF4973

 ピックガードを装着したら、まるでマーチンクラックがあったなど嘘のように仕上がりました。

DSCF4968

全体をチェックしてリペア完了です。この個体は当たりなのか象牙サドルが高じてか素晴らしいサウンドで鳴っています。良いギターを蘇らせることが出来てリペアマンとしてもうれしいですね。