Gibson Humming Bird 90年代製 フレット交換・ナット交換・ブレーシング剥れ
90年頃のハミングバードです。ピックガードにハチドリがデザインされたギブソンを代表するフラットトップギターの1つですね。フレットの消耗が激しいので交換、あわせてナットも交換のリペア依頼です。チェックした所ブレースの剥れが8箇所も確認されたのでそちらも補修していきます。
さてリペアの前にスペックを見ていきましょう。実はこのギター、ギブソンとしては少し変わっているんです。
まずはブリッジから。オリジナルブリッジですがビス止めの化粧パールがありません。ビスでブリッジを固定しない方が良いとされていますのでこの頃の一時期は接着のみで貼られているのでしょう。
そして内部のブレースもスキャロップされています。スキャロップもきれいですので後から施したのではなくオリジナルと思われます。ブリッジプレートにもビス跡はありませんね。1オーナーモノなのでそこは確かだと思われます。ギブソンにも時代によっていろいろマーナーチェンジがありますからこの頃はこうゆう作りだったのですね。
チェックしたブレーシングが剥れている箇所。ブレースの剥がれは早めに処置しないとボディが歪む原因となりチューニングがあわない・ピッチが悪い・鳴りも悪くなるなどの症状がでます。
他の剥れ箇所。
こちらも。
ブリッジプレート近くも。
かなり広範囲にわたって剥れていました。
ブレーシングのジャッキアップ。ジャッキアップでトップ板やバック板に負担が掛からないように外側からもやさしくクランプします。
すべての剥れ箇所を接着しました。クランプとジャッキを使ってブレーシングを留めていき固着には24時間待ちます。
磨耗したフレットの様子。
フィンガーボードの割れや欠けを防ぐためにフレットを外す前にたっぷりとレモンオイルを与えます。
フレットを温めるのも割れや欠けを防ぐために重要です。このようにハンダごてで温めながらフレットを抜いていきます。
ギブソンのネックバインディングにあるフレットエンド部を隠す突起をカットします。
フィンガーボードのラジアスを調べます。ギブソンは12Rが多いですね。
エンド近辺も同じく12R。
トラスロッド調整で弦を外した状態でネックをストレートに戻します。
先にナットを外しておきます。木を当ててからハンマーで軽く叩いてナットをはずします。
ナットスロットに付着している接着剤の残りをマイクロノミで除去します。
Nut Seating Filesでナットスロットの微調整。
ナットスロットのクリーニングが完了しました。
さて先程のバインディングの突起部作業に戻ります。カットした部分をヤスリでならします。
このような感じに仕上がりました。
計測したラジアルで指板修正していきます。
フレット溝に残る木屑もきれいに取り除きます。
バインディング付きネックですのでカットしたフレットを間違わないようにナンバリングして分けておきます。
フレットタングニッパーでバインディングに乗ってしまうエンド部をカットします。
フレット浮きを防ぐ為カット部もヤスリでキレイに仕上げます。
フレット打ちには、まったくギターに衝撃を与えない3種類の専用工具を使用します。ハンマーを使わないプレス式ですのでアコースティックギターには最適なツール。ネックブロックにあたるところまでエンド部からはこのプレスツールで作業します。
ネックヒールがある辺りはこの工具でプレスしていきます。
3種類目のプレス工具。ハンマーを使わずRにあわせてプレスするのでフレット浮きも出にくいです。
くいきりでフレットのはみ出た部分をカットします。
Fret Beveling Fileで35°の角度にフレットエンドを削っていきます。
次はフレットのすり合わせを行います。ストレート(真直度)を精密に測るスケールで隙間が無いかチェックします。 コピー用紙を挟んだり光をあてたりしてフレットトップの高さをあわせていきます。
ストレートゲージで低くなっているポイントをマーキングしました。
マーキングが消えはじめるくらいまでフレットトップを均等にサンディングしていきます。
フレットレベリングファイルで出来たキズを消していきます。
バリ(めくれ)処理をします。
すり合わせで出来たフレットトップの角を専用ヤスリで丸くして頂点を出していきます。
すり合わせ時の傷が深い時には#150くらいからはじめて徐々に番目をあげていきます。
#1000くらいまでペーパーで磨いてからスチールウールで磨きます。
最終的にコンパウンドを使用して磨き上げます。
ボディプロテクト板をはずしましょう。
フレットエンドの最終確認でバリ処理をします。
スラブ材からナットを作成していきます。
スロットピッタリに厚み調整していきます。
ナットスロットにピッタリ収まるように成形した後おおまかなサイズにカットしていきます。
形を仕上げていきましょう。
形が仕上がったらここで軽く磨いておきます。
オリジナルナットから6弦1弦の位置を書き写します。
String Spacing Ruleで正確な弦間隔をはじきだします。
弦溝を切っていきます。荒く削った後、弦を張って弦高の微調整をして仕上げます。
ナット工程は完了です。
スロットにピッタリと収まったナット。この仕上げが良いトーンを生みだします。
同じく1弦側。密着度が高く弦振動が良く伝わり、結果トーンの向上が期待できるのですね。
ピカピカになったフレットは音もキラキラしそうです。実際サウンドは粒立ちが良くなりサスティーンが向上します。
永年の使用で汚れがひどい状態でしたのでボデイを磨いていきましょう。
バフがけで仕上げます。
ギターの顔であるヘッドも磨いていきます。
全体をチェックしてリペア完了です。ブレースの補修が施されて鳴りに張りが戻ってきました。リフレットやナットの材質変更でギブソンらしいジャキッとした感じで鳴っています。