Fender テレキャスターカスタム ナット製作&メンテナス
Sシリーズと呼ばれる70年代後半のテレカスタムのメンテナンス依頼です。数年前にリペアに出した際、鳴らなくなって帰ってきたという個体。チェックしてみるとナットの作成処理が甘いのが原因で1弦が音詰りしたような状態です。エレクトリックでも生鳴りは重要ですので各部調整していきます。
まずはブリッジ部のクリーニングから行います。こちらも弦のテンションがかかる鳴りの重要ポイントですのでキレイにしていきましょう。
ブリッジプレートもビスをすべて取り外してクリーンアップ。
サドルパーツも1つずつ分解して洗浄します。
4弦のブリッジのイモネジが1つだけ6角ナット穴がバカになっていました。鉄のこで切れ目をいれてマイナスドライバーで回せれるようにしました。
フロントボリュームにガリが確認できましたが接点復活材で洗浄。
付いていたナットです。写真では確認しずらいですが1弦の溝が2重に切られており色々と試行錯誤されたようです。見たところナット底辺のR処理が歪んでいて1弦の振動がうまく伝達していないようです。新たにナットを作成していきましょう。
プレーンナットを溝にぴったり合うようにフラットファイルで調整していきます。
R処理中のナット。ヴィンテージフェンダーの7.25Rに調整します。
もう少しと言ったところでしょうか。ギブソン系のフラットな底辺のナットとは違い難度が高い処理です。
いろんなファイルを使用して底辺の仕上げを行います。
きれいに底辺のR処理が出来ました。
キッチリと溝に収まりました。この後、形を整えていきます。
整形後のナットです。6弦側面から見た様子です。きっちりと溝に収まっているのが確認できます。
同じく1弦側。こちらもきっちりと溝に収まっているのが確認できます。これだけでいいトーンがしそうですね。
70年代に考案された3点止めのネックポケットです。
3点止めネックは楽器としてあまり良い評価がありませんが調整する立場からはよく考えられた仕様だといえますね。ネックの仕込み角をこんなに簡単に行えるのは画期的です。レオ・フェンダーのその後のブランドG&Lに3点止めが採用されているのもうなずけます。
もとのナットから6弦と1弦のポイントを書き写します。
String Spacing Ruleで正確に各弦の間隔を写していきます。
弦溝を切るポイントにケガキを入れます。
弦のテンションや角度、弦高を考えて正確に溝を切っていきます。
3フレットを押さえて1フレット上にできる隙間ギリギリまでナットの弦高調整をします。
各調整が終わったらナット表面を磨いていきましょう。
ナットが仕上がりました。
フィンガーボードにたっぷりとレモンオイルで保湿成分を与えます。
各弦の弦高調整とオクターブ調整を行います。指板と同じ7.25Rで行いますが実際には少し緩いRでの調整にします。
弦高は6弦12フレット上で持ち込まれたときは2.75mmありましたが約2.0mmまで下げる事が出来ました。
同じく1弦側では持ち込まれたときの2.25mmから調整で1.5mmまで下げれました。その後オーナー様にお引渡し時に1弦のみ約1.3mmまで下げてお渡ししました。
組み上げて完了です。年代的に重量感のある固体ですがその重さもトーンに良い影響がある印象の楽器でした。